ウェブメディア インタビュー記事編集・執筆

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廃棄家具を分解し、芸術(文学・音楽etc.)と神様(偶然性・神秘)の力により再構築をするブランド『GMKR-Uneven Structure Furniture-』が5月18日〜24日の期間、伊勢丹新宿店メンズ館1階でPOP UP STOREをオープン。アーティスト大橋秀吉が創造していく新しい市場は、僕らをどこにつれていくのか。

松陰神社に続く商店街の一角にある大橋のアトリエには、出来上がったばかりの家具たちが天井近くまで積み上がっている。ハイブランドのディスプレイに使われていた資材、古いマッキントッシュ、旅館で使われていた座椅子。イームズとニトリが合体し、アルファ・ロメオはG5と組み合わさり息を潜める。かつてどこかで活躍していた時代遅れの資材が形を変え、奇妙なバランスでブリコラージュされた様々な家具はSF映画のような異様さを漂わせながら見事な不均衡を保っている。

今回のテーマであるRESSURRECTIONの意味である復活や復興は『キリストの復活』という強いシンボルを抱えている。この宗教的な背景を踏襲し、メッセージを強く投影する方向への道筋を与えたのが、小説家、吉本ばななさんとの何気ない会話だった。「捨てられたものって、なんかモヤがかかってますよね。それを祓う感じに、いちばん興味があります」。モヤを祓うという神聖な響きこそ、大橋が活動を開始して以来つねに持ち続けていた感覚そのものであり、自分の考えを呼び覚ましてくれるきっかけとなったと言う。

「目に見えない世界があると思っていて、宗教もその一つ。世の中にいっぱいあるけどタブー視されていたり、そもそもあまり関わりたくなかったりしてあまり見えてこない。そこの隠れている世界を俺なりに表現したいと思ったんです。タブーゆえに大量消費社会ではあまり存在しないものが、俺ぐらいの規模なら形にできるのも面白いなと」。

”Uneven Structure Furniture”が世の中の均一にもの申す

大橋の活動が環境問題へのアンチではないことは、はっきりしておかなければならない。

「俺はある種、世の中がこのままでもいいと思ってるんです。というのも、サーキュラー・エコノミーって絶対来る世の中の流れなんですよね。人口もゴミも増えてあと20年で埋め立てられなくなるという話がありますが、そうなったら、ゴミを消すかあるものを使うかというのはどうしようもない時代の流れなんです。俺は、サーキュラー・エコノミーが実装されるのって2100年ぐらいまでかかると思っていて。さかのぼって80年前の今、環境問題の盛り上がりの新たな転換点にあるときに時代にあった自分の仕事はなんだろうと。

今まで日本は、全てにおいて均一かつ高品質を目指してきました。工場ができて安価で物が作れるようになって、そのための人間の教育が構築されて、テストで100点ができた。結局、人間の人生も均一生産社会になってしまった。もっと不均一な人生を歩んだほうがいいよ、というメッセージなんです」。

工業製品を製造するように人間を形成し消費してきた世の中の背景には、特権階級のみが富や人権を手にする社会の歪みにもつながっている。ダイバーシティやSDGSの名目で少しづつ祓われようとしている呪いが解ける兆しはまだ程遠い。“普通”の生活のなかで目に見える人たちはあまりにも偏り、見えない人たちは暗がりに追いやられている。社会を形成する枠の条件からはみ出た瞬間、その構造に気付かされる、ということがある。

「赦すっていうことが社会に足りないなって思ってて。他の人のことを考えられる余裕がなくて幸せじゃないから人に八つ当たりしちゃう、みたいな感じだとおもうんです。特に均一生産から漏れた人がやっちゃいがち。でも、そもそも誰もが漏れてないんですよ。もっともっと多くの人間が自分はOKと思えるようになれば、他人のこともOKになって、もっと角がとれた社会になるんじゃないかな。

すべてを知りたくて世界を旅しましたが、経験よりも想像力や共感力のほうが大切だと今はわかるんです」。

GMKRのレトロフューチャーな作品からは、近未来で退廃した人類の姿のようなイメージを抱く。

「違和感を持ってもらうことがある意味テーマになっています。もし新しいものを生産しないという法律ができたら、あるものの価値が一気にあがる。今そういう世界になって何かを作るとしたら、こういうプロダクトになるんだよ、って。今回のRESSURRECTIONからは、人の手が作っているものに対して持つ違和感が敬虔さや畏怖、世の中のB面みたいなものを感じてもらえたら面白いなと思ってます」。

社会を取り巻く“正しさ”は、それにすがり守る人間たちを呪いのように苦しめる。それを取り払い人間としての復活を可能にするのかもーー神格化されたハイブランド達が立ち並ぶきらびやかな店内で、GMKRが発する目に見えないメッセージが現代社会の罪を許す時を見届けて欲しい。